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大阪地方裁判所 平成6年(ヨ)686号 決定 1994年7月15日

債権者

脇本親男

右代理人弁護士

岩田研二郎

債務者

築港生コンクリート株式会社

右代表者代表取締役

上西紀明

右代理人弁護士

安若俊二

主文

一  債権者は、債務者の従業員の地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、金三七万四〇〇〇円及び平成六年七月から本案訴訟の第一審判決の言渡しに至るまで、毎月二五日限り金三七万四〇〇〇円を仮に支払え。

三  債権者のその余の申立てを却下する。

四  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一申立て

一  債権者は、債務者の従業員の地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、平成六年三月以降毎月二五日限り、三七万四〇〇〇円を仮に支払え。

第二当裁判所の判断

一  債務者は、生コンの製造販売を業とし、債権者は、昭和六一年五月二一日債務者に雇用され、平成元年からは工場長として、平成三年四月からは営業部門の責任者として勤務し、債権者の賃金は、月三七万四〇〇〇円を毎月二五日限り支給されてきたところ、債務者は、債権者に対し、平成五年一一月三日、しばらく自宅待機を命じ、平成六年二月一八日、同月二一日限りで解雇する旨通告したことは当事者間に争いがない。

二  債務者は、債権者を解雇した理由として、

1  債権者は、工場長として勤務していた頃、次の各事由で工場長を辞めさせた。

ア 従業員を大声でどなり散らすため、従業員から不満が出、

イ 早退しても山本課長に午後八時頃タイムカードを打つように指示し、

ウ 債権者に好感を持っているように振舞う者に必要以上に残業をさせ、無駄な経費を支出させ、

エ 債権者が来ると従業員が持ち場を離れ、製造に影響が出、

オ 従業員の総意で何とか考えて欲しいとの要望があった。

2  平成三年四月からは、債権者に工場長を辞めさせて、営業に従事させたところ、次のような不都合があり、取引先等からクレームがついた。

ア 債権者は債務者の得意先である大林組と商談中、債務者の取引先である浅野総業と債務者の関係につき、「たいしたつきあいでない。」「取引をやめてもよい。」とか発言したため、これが浅野総業の耳にも入り、債務者は大林組、浅野総業の両得意先から信用を失った。

イ 債権者は平成五年七月中頃、得意先の事務所入口で、債務者の従業員と言い争いをしたため、債務者会社は信用を失った。

ウ 西松が施工する工事現場で、「貴社(西松)と直取引できないことはないが、あえて大中建販を窓口に付けてやる。」と発言し、債務者は信用を失った。右発言は債務者の得意先である大中建販の都築氏の耳に入り、後日債務者代表者がお詫びに行き、その後取引は続いているが信用回復までに至っておらず、契約物件の注文もない。

エ 大阪協組事務所内で同所役員と昼間から酒を飲み奥の部屋で寝ていた。

オ 上司の指示に全く従わない。

カ 自宅に帰る際、全く連絡しない。

3  そこで、債務者は、平成五年一一月三日債権者に自宅待機を申し入れ、反省を促したが、反省の色は全くない。また、債務者は、債権者を他の部署に配転すべく、各部署の責任者に諮ったが、いずれもこれを受け入れることを拒んでいる。

三  そこで、まず、債権者が解雇前(自宅待機を命ぜられるまで)従事していた営業に関する、右二2につき、判断する。

1  右二2アないしエについては、これに添う具体的な疎明資料はなく、債権者は、右二2の、アについては、大林組との取引に際し、二度にわたり、債務者代表者が債権者の頭越しに取引先に対し、浅野総業が間にはいることを希望しながら、債権者にはこれを知らせていなかったため、債権者が、大林組との間にはいる建材販売店と商談の際、取引に浅野総業がはいることについて聞かれ、「債務者から希望したものではない。」と答え、大林組との商談中、「間に浅野総業がはいりますよ。これもおたくの社長の要望ですよ。」と言われたことがあったが、債務者主張のようなことを、言ったことはない、イについては、債務者の従業員野田が、得意先の目の前で債権者を君づけで呼んだため、一言注意したのみで、言い争いをしたものではないし、債権者はその後もその得意先で工事を受注しており、債務者の信用を失ったことはない、ウについては、債務者主張のような発言をしたことはなく、西松建設との間にはいる大中建販の都築氏から、さらに間にはいる販売店二社の調整をつけるよう依頼されたが、本来発注者側の大中建販でなくてはできないことなので、その旨事情を説明したことはあるが、都築氏も了解してその後円満に取引が成立したものであって、信用を失ったことも、債務者に損害を与えたこともない、エについては、協組事務所に出入りしたことはあるが事務所内で飲酒したことはない、と主張し、これに添う陳述をする(<証拠略>)ものであって、右債権者の主張はそれなりに理解できるものであって、結局、右二2のアないしエの債務者主張各事実は認められない。

2  右二2オ、カについては、「債権者は、直帰報告なく、業務書類の提出を拒否し、上司の命令、指示に対し椰揄嘲笑し、業務報告を一切しない。」旨の債務者主張に添う債務者営業本部長松井道明の陳述書(<証拠略>)があるが、一方、債権者作成の報告書(<証拠略>)、債権者のタイムカード(<証拠略>)によれば、債務者の営業担当者は、得意先の都合で遅くなることもあり、事務所に戻らず直接帰宅する(直帰)ことを許されており、翌日出勤時に前日の営業報告をしていたが、平成五年一〇月松井道明が入社し、営業本部長として、債権者の上司の立場となり、直帰するときは電話連絡するように指示したので、それ以降は、債権者も連絡を励行してきたこと、業務書類については、営業の結果を報告する日報、営業報告書、契約残高表は提出しており、右松井が入社後作成を求められた販売計画書については、これまで求められたこともなく、必要性について疑問があったので作成しなかったが、再度作成を求められ、一〇月二四日頃には作成して提出したこと、債権者は、従前から朝早く出勤していたことが認められ、これらによれば、債権者は、これまで営業部門の責任者として仕事をしてきており、右松井のやり方がこれまでの債務者会社のやり方を踏まえず、他社でのやり方を社員との協議もなく押し付けようとするものであるとして、反発する行動をとった面はあるが、結局は右松井の指示に従って業務に従事してきたものであり、また、債権者が朝早く出勤するのは右松井が入社前からのことであって、右松井への営業報告等を避けるためともいえず、債務者主張の右二2オ、カの事実は認められない。

3  債務者は、右二1で債権者の平成三年四月までの工場長をやめさせた理由や、同二3で債権者を営業以外で受け入れる部署がないことを主張し、これに添う債務者代表者の陳述(<証拠略>)及び松井道明作成書面(<証拠略>)も存在するが、債権者提出の疎明資料(<証拠略>)に照らし、その内容はすべてをただちに信用することはできないし、右1、2のとおり、債権者は、平成三年四月から解雇(自宅待機)まで営業の仕事に従事し、その間の勤務態度が債務者主張のように著しく不良だといえないのであるから、右二1、3の主張事実をもって、解雇を正当とする事由があるとは認められない。

4  結局、本件解雇を正当とするに足りる理由は認められず、本件解雇は解雇権の濫用にあたるものとして無効というべきであり、債権者は、債務者の従業員たる地位を有するものであることが認められ、その保全の必要性もまた認められる。

四  本件疎明資料(<証拠略>)及び審尋の全趣旨によれば、債権者は、妻と子二人(会社員及び大学生)、妻の母(平成六年三月から)と同居し、妻の母及び会社員の子は収入があり、食費等の分が家計に支払われているが、それ以外はもっぱら債権者の賃金で生活を維持しており、債務者に対し、平成六年六月分の債権者の賃金額である三七万四〇〇〇円及び同年七月以降、本案の第一審判決の言渡しに至るまでの間、月額三七万四〇〇〇円宛の金員の仮払いを命ずる必要性もまた認められ、これを超える部分については必要性の疎明がない。

五  以上のとおり、本件申立ては、債権者の債務者の従業員たる地位の保全並びに三七万四〇〇〇円及び平成六年七月以降本案の第一審判決の言渡しに至るまでの間、毎月二五日限り、三七万四〇〇〇円宛の仮払いを求める限度で理由があるので認容し、その余は理由がないので却下することとし、事案の性質に鑑み、債権者に担保を立てさせないで、主文のとおり決定する。

(裁判官 関美都子)

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